ウソつきより愛をこめて
「…なんだよ。一日中サンタの格好させられたせいで機嫌悪くなったのか?」
私の後を追いかけてくる橘マネージャーには目もくれず、玄関からリビングの方に足を向かっていく。
「ママおかえりー、見てぇ!じゃーん」
寧々は私を見るなり飛びついてきて、ダイニングテーブルの上に置かれたケーキやご馳走を一生懸命指差していた。
「…これ…」
「全部テイクアウトで悪いけど。お前ずっと頑張ってたし、俺からのおごりな」
「……」
何も知らなかったら手放しで喜んで感謝の気持ちを伝えられるのに、私は何も言えなくなる。
必死に頑張る橘マネージャーが、滑稽に思えるのが苦しくてしかたなかった。
「何つっ立てんだ。早く座れ。寧々も食べないで、ずっとお前のこと待ってたんだぞ」
「ママっ、はやくっ!」
促されるまま席に着いた私は、複雑な心境のまま目の前で楽しそうに会話を繰りひろげる2人を見つめる。
…あと、何時間こうしていられるのだろう。
このまま時間が止まれば、ずっとこうして三人でいられるのに。
私の虚ろな目は、握り締めたスマホのディスプレイをじっと見つめていた。
「…いいか寧々。早く寝ないと、サンタさん来ないからな」
「はーい。ママ、行こっ」
お風呂から上がって、寝る準備を整えた寧々と一緒に、私はベッドに潜り込む。
このまま眠ってしまえれば楽だけど、色んなことがありすぎて眠れそうもない。
「…ねぇママ」
「…ん…?」
「ママ、だーいすき」
半分うとうとしながら、寧々が柔らかい表情で幸せそうに微笑んでいる。
「ママも…寧々が大好き」
胸がじんと熱くなるのを感じながら、寧々を自分の胸に引き寄せる。
ごめんね、寧々。
ママは今日、一番大好きな人とさよならしなくちゃいけないんだ。