ウソつきより愛をこめて
一気にまくし立てるようにそう言って、目の前の橘マネージャーを睨みあげる。
これでもう、後戻りは出来ない。
彼は瞳を大きく瞬かせて、凍りついたように動けなくなっていた。
そのまま眉間に手を当てながら黙りこんでしまった彼の様子を、私は探るように目で追っている。
「…お前の言いたいことって、それ?」
やがて彼から地を這うような低い声が聞こえてきた瞬間、私は咄嗟に身体を強ばらせていた。
表情にはたいして変化がないのに、その黒い瞳の奥には熱い怒りの感情を孕んでいるようにも思える。
彼の足がこちらに1歩踏み出す前に逃げれば良かったのに、私の竦んでしまった足はすぐに動いてくれそうにもない。
「期待した俺がバカだったな」
まるで独り言のようにそう言い捨てた彼は、私の手首を痕がつきそうなくらい強く握り締めていた。
「は、離し…」
「離さない」
ぎりぎりと徐々に締め付けられて、その痛みに私の頬が引きつっていく。
「離したら、お前また俺の前から居なくなるんだろ」
橘マネージャーは、自分が今どんな顔でそんなことを言っているのか、気づいているのだろうか。
責めるような言い方をするくせに、顔はまるで激痛に耐えるような切ない表情を浮かべている。
一体どこまでが演技なのか、私にも分からない。
「どうすれば、お前はここに戻って来るんだよ…!」
そのまま腕の中に閉じ込められて、洗いざらしの服の匂いと爽やかな香水の香りが、私の鼻腔を擽ってくる。
ぎゅうっと強く抱き込まれる度、私の胸には苦い悲しみが広がっていた。