ウソつきより愛をこめて
「…に、二度と戻らない。絶対に、…戻ったりしない」
油断してしまえば涙が溢れてしまいそうになる中、私は必死で声を張り上げる。
「煩い」
橘マネージャーは、まるで黙れと言わんばかりに、自分の胸に私の口を押しつけていた。
「……っ離し、」
後頭部に添えられた手の力が緩む気配は全くない。
息も満足に出来ないようなその場所で、私は自分の気力と必死で闘っていた。
…橘マネージャーのぬくもりがあまりにも心地よくて、そしてなによりも愛おしい。
ずっとこうしていたくて、思わず広い背中に手を伸ばしてしまいそうになる。
「…エリカ…」
彼が私の名前を呼んだとほぼ同時に聞こえてきた、インターホンの音。
静かな部屋に響き渡ったその音に、私は一気に現実の世界に引き戻されていた。
(そうだ。もう、…タイムオーバーなんだ)
同じように気を取られている橘マネージャーの手が緩んだ隙に、私はそこから抜け出してエントランスのモニターを覗き込む。
カメラに映っているのは、そわそわしながら心配そうな表情をしているその人で。
ロックを解除しながら、私はゆっくりと後ろを振り返っていた。
「…なんでそいつがここに…」
驚愕の表情を浮かべる橘マネージャーの顔を見て、私は最後の覚悟を決める。
悔しいから、全ては明かさない。
きっとこれが、私があなたにつく…最後の嘘だから。
「さっき、私が呼んだ」