ウソつきより愛をこめて
「なんのためだ」
「もちろん、寧々のためだよ」
私の言葉になにか違和感を覚えたのか、彼の表情が焦燥と焦りの混じったものに歪んでいく。
「…はっ、嘘つけ」
「私、まだ何も言ってないけど」
「俺よりも、…こいつの可能性のほうがありえないだろ」
「なんで?なんの根拠があって?」
「それはお前が…」
「いつまで私のこと、二股なんて出来ない純粋な女だって思ってるの?ひろくんも東京に住んでるんだから、そんなこといくらでも可能だったのに」
そう言い切ったところで玄関の方から足音が聞こえて、私は急いでそちらに向かう。
ひろくんは走って来てくれたのか、息が少し荒くて頬のあたりがうっすらと赤くなっていた。
「ごめんね、明日帰るのにわざわざ来てもらって…」
「平気。それより…大丈夫なのか?」
「うん。今話してるから、中入って。寒かったでしょ」
急な呼び出しだったのに、すぐに応じてわざわざここまで足を運んでくれた彼を労って、リビングへと案内する。
「…こんばんは。天草紘人と申します」
殺伐とした雰囲気の中挨拶したひろくんに、橘マネージャーは底冷えがするほど冷たい目線を向けていた。
「橘マネージャーが寧々を自分の子だって勘違いしてるのわかってて、ずっと黙ってた。…ごめん。ひろくんが正真正銘、寧々の父親だよ」
いつから私は、嘘がこんなにもすらすら言えるようになったのだろう。
沈黙が恐ろしく長く感じる。
俯いたまま言葉を発しない橘マネージャーを、私はただずっと見つめていた。