ウソつきより愛をこめて
「寧々が大変お世話になったとエリカから聞いてます。これからは俺が責任持って…」
「…ふざけんなっ!」
口火を切ったひろくんに向かって橘マネージャーが壁を殴りつけ、ガン、と鈍い音が響き渡る。
それに怯えた私を、ひろくんは自分の後ろに隠していた。
「そんなもん嵌めてるくせに、…よく平気で“責任”なんて言葉使えるな」
「…それを、あなたにわかってもらうつもりはないよ」
結婚指輪を指摘されても、ひろくんは屹然とした態度で橘マネージャーに臨んでいる。
嫌な役をやらせてしまったことが申し訳なくて、私は必死で奥歯を噛み締めていた。
「お前を…一発殴らないと気が済まない」
唸るようにそう言った橘マネージャーの言葉を聞いて、彼が本気で怒っているのが伝わってくる。
「好きにすればいい」
まるで挑発するようにそう返したひろくんに、私は目を丸くしながら驚いていた。
「…ま、待って」
まさかこんなことになるなんて。
拮抗している二人の間に、私は慌てて入っていく。
「やめて、お願い!」
それでも橘マネージャーは、ひろくんに掴みかかったまま、その手を離そうとしない。
それは私にとって大きな誤算だった。
寧々が自分の子じゃないってわかったら、あっさり彼女の元へ行くと思ったのに。
…誰のために、そんなに怒ってるの?
橘マネージャーの行動の意味が理解できなくて、頭が混乱する。
彼がひろくんに向かって拳を振り上げた、その時―――。
「…パパ…?」