ウソつきより愛をこめて
今日は遅番だけど、いつもより三十分前に家を出た。
昨日のように誰かに見られることを避けるためだ。
人目を気にしながら保育園から出て、職員の専用通路に向かう。
寧々との別れの寂しさを振り払うように、早足で歩き出した、その時ーーー。
「…エリカ!」
後ろから突然声をかけられて、身体がびくりと反応する。
ひどく聞き心地のよい甘い声は、私がかつて好きでたまらなかったものに似ている気がして、そのまま振り返らずに前へ進んだ。
「おい、待てっ」
相手の足音が、私の背中を追いかけてくる。
エレベーターに乗り込んだ私は、叩きつけるようにドアを閉めるためのボタンを連打していた。
「こら、閉めんな!…エリっ」
すんでのところで扉がしまって、私は自分の息が随分上がっていることに気がついた。
心臓を打ち鳴らすような鼓動を感じて、額に嫌な汗が浮かんでくる。
…なんであの人が、ここにいるの。