ウソつきより愛をこめて
「…どーも」
途端に思いっきり表情を曇らせた私を見て、美月はまたか、と言うようにわざとらしくため息をつく。
声をかけてきたのは、一つ上の階のメンズフロアで働く前橋さん。
彼はいわゆる女好きで、私だけに限らず各店舗の気に入った女性によく声をかけているらしい。
かと言ってしつこく付きまとわれてるわけでもないので、非常に扱いづらい存在だ。
「今日も可愛いねぇ。あ、このカシミヤのストールここの新作?似合ってるよ」
「これ肌触りよくておすすめですよ。彼女さんへのプレゼントにいかがですか?」
「もーつれないなぁ。そんなのいないって分かってるくせに」
あーもう早く、どっか行って。
私の羽織っているストールに彼のアクセサリーだらけの指が伸びてきて、ぞわりと鳥肌が立つ。
適当にあしらっていればそのうちいなくなるだろうと鷹をくくっていたのに、前橋さんはこんな日に限ってどうでもいいようなことをベラベラと喋りかけてくる。
「ねぇエリカさん、今度さ俺と飲みに行こうね」
「はい、そうですね」
惰性で返事をし続けていた私は、彼がにやっと笑ったのを見てひどく後悔した。