ウソつきより愛をこめて
「結城は閉店後に俺とミーティングあるから。諦めてくれる?」
「……!!」
私と前橋さんの間に割り込んできた長身の男が、底冷えのするくらい低い声で相手にそう告げる。
そのあまりの迫力に、前橋さんは口を開けたままぽかんと突っ立っていた。
「えと、エリカさん…?この人は…」
「マネージャーの橘(たちばな)と申します」
彼は間を置かずそう告げて、私に話す隙を与えない。
まるで背中の後ろに隠すように立ちはだかり、私の視界を妨げていた。
「そうですか、じゃ、じゃあまた今度誘いますね」
「…ちっ。二度とくんな。カスが」
そそくさと去っていった前橋さんの背中に向けて、彼らは悪気もなく飄々と呟く。
その言葉が聞こえたのは、きっとすぐそばにいる私だけだろう。
「…お久しぶりです。橘マネージャー」