ウソつきより愛をこめて

「結城は閉店後に俺とミーティングあるから。諦めてくれる?」

「……!!」

私と前橋さんの間に割り込んできた長身の男が、底冷えのするくらい低い声で相手にそう告げる。

そのあまりの迫力に、前橋さんは口を開けたままぽかんと突っ立っていた。

「えと、エリカさん…?この人は…」

「マネージャーの橘(たちばな)と申します」

彼は間を置かずそう告げて、私に話す隙を与えない。

まるで背中の後ろに隠すように立ちはだかり、私の視界を妨げていた。

「そうですか、じゃ、じゃあまた今度誘いますね」


「…ちっ。二度とくんな。カスが」

そそくさと去っていった前橋さんの背中に向けて、彼らは悪気もなく飄々と呟く。

その言葉が聞こえたのは、きっとすぐそばにいる私だけだろう。


「…お久しぶりです。橘マネージャー」

< 23 / 192 >

この作品をシェア

pagetop