ウソつきより愛をこめて
空気が一気に重たくなって、私の肩にのしかかってくる。
やっぱり聞き間違いなんかじゃなかった。
その甘ったるくて端正な顔立ちも。
色気がただ漏れの低い声も。
確信犯的な笑みを浮かべた、形の良い唇も。
髪の毛は少し伸びて色が暗くなった気がするけど、他は二年前のあの日からなにも変わった様子はない。
「お前さっきはよくも俺を置いて行ったな」
「…橘マネージャーだとは、夢にも思いませんでしたので」
「嘘つけ」
「あの…ヘルプの件ですが…」
「ああ。お前には悪いけど、少し早めに来させてもらった」
(相変わらず勝手な人だな…)
不機嫌な顔をした私とは対照的に、橘マネージャーは満足そうに微笑みながら私を見下ろしていた。
「…そうですか。わざわざご足労いただきありがとうございます。でも今のメンバーで店はうまく回ってますので。どうぞこのまま、東京にお帰りください」
「それはお前の決めることじゃないだろ」