ウソつきより愛をこめて
予想外なことを聞かれて、私は少し狼狽えてしまった。
「…それ、あなたに言う必要ある?」
「父親は誰なんだ」
「しつこいから」
「いいから言え…っ!」
橘マネージャーの声が、いつもより一層低くなる。
私は顔では余裕ぶっていたけど、内心嘘をつくのが苦しくなっていた。
「…誰が父親かなんて、あなたには関係ない」
「ないなら父親の名前を言ってみろ」
語気を強めた橘マネージャーの表情が、なぜか切なそうに歪んだ。
「ていうか、子供の前でこんな話するのやめてくれない?」
苦し紛れの一言で、これ以上の追求を拒む。
「…本当、に…?」
どうせ自分の子だったら面倒くさいとか、最低なことを考えているくせに。
「寧々は私の子ですから」
どくん、どくんと、心臓が嫌な音を刻む。
「その子は、“ねね”って、いうのか…?」
でも聞こえてきた声は、気が抜けてしまうくらい優しいもので。
彼は私が抱いている寧々を、まるで愛おしいもの見るような熱い瞳で見つめていた。
寧々は見た目からも2歳前後だとはっきりわかる。
私たちが別れたのは今からちょうど2年前だから、彼もそんな疑念を抱くのだろう。
…なんだかまずい展開になりそうな予感がする。
嘘をついている後ろめたさに耐え切れなくなった私は、その視線から目を思い切り逸らしてしまった。