ウソつきより愛をこめて
ずささ…っ!と服が引きずられる音がして、目を疑うような光景が視界に入る。
かばうように投げ出された長い足に、一見細いけど実はとても筋肉質で逞しい腕。
痛みに顔を歪めた橘マネージャーは私と寧々の身体の下敷きになり、硬いコンクリートの衝撃から守ってくれていた。
「…あ、…あの…」
「この…馬鹿やろう!」
あまりにも大きな声を出されて、身体が大きく跳ねる。
「子供抱っこしたまま、走る母親がどこにいる…!」
声と表情は厳しいのに、私と寧々を包む腕は壊れ物に触れるように優しくて、頭が混乱した。
「ママぁ?」
「ご、め…」
腕の中の寧々が無傷なことにほっとして、目に涙が浮かんでくる。
自分の勝手な都合で大事な寧々まで危険な目に合わせてしまった。
もし橘マネージャーが助けてくれなかったらと考えるだけで、背筋が凍りそうになる。
「寧々…、寧々…っ」
「エリカ、お前はどこもケガしてないか」
寧々に抱きしめながら私は小さく頷く。
どんなに怒られても…誤解は解かないといけない。
寧々はあなたの子供でも、…私の子供でもないんだって。