ウソつきより愛をこめて
どちらかと言えば仲はいい方だと思っていたけれど、二人で飲みに行ったことなんてあるわけがない。
相手は天下のモテ野郎。
彼を狙ってるお姉様方に見つかったら、八つ裂きにされてしまう気がして仕事が終わるまでの時間がひどく憂鬱だった。
看板のない隠れ家的なドアをくぐった先に、ダウンライトで照らされたモダンで落ち着いた雰囲気のカウンターが見える。
橘マネージャーは慣れた様子で、奥にいるバーテンダーさんと気軽に話していた。
(う、うわぁ。なんか大人…)
こんなおしゃれなバーになんて生まれて初めて入ったよ。
キョロキョロと落ち着かない私の隣で、橘マネージャーがよくわからないカクテルを頼んでいた。
「落ち着け。結城は酒強いのか?」
「いや、強くはないです…」
普段と違って恐縮しきりの私に、橘マネージャーは薄ら笑いを浮かべている。
どんなつもりで私をこんなところへ誘ったのだろう。
こういうところに連れてくる女の人なんて、いくらでもいそうなのに…。
「お前、最近なんかあったのか?」
「……え?」
「いつもはバカみたいにヘラヘラ笑ってるくせに、今日は作り笑いばっかりしてただろ」