ウソつきより愛をこめて

「…ヘラヘラって…もっと他の言い方ないの」

「それがお前唯一の取り柄だろ」

「なんかバカにされてる気がする!」

「違う。俺は褒めてやってんの」

「え…!?」

橘マネージャーからの意外な言葉に、私は心底驚いた。

…褒められたのは、一年近く一緒に仕事をしてきて初めてだ。

「…嬉しい…」

長い苦労が実った気がして、目尻に涙が滲んでくる。

「実は最近、失恋して…」

「………へぇ。お前って付き合ってるやついたんだ」

ノリで白状した私の隣から、幾分トーンの低い声が聞こえて来た。

「違う違う。…幼馴染のお兄ちゃんに小さい頃からずっと片思いしてたんだけど、その、…今度結婚することになったらしくて…」

「…ふーん」

あの事を思い出すだけで、テンションが下降していく。

私のどうでもいい恋愛話を、彼はゆっくりタバコを吸いながら静かに聞いていた。

「でも今日は橘マネージャーに褒められたし、別にいいや!忘れる!」

バーテンさんから出されたフルーティで飲みやすいカクテルを、私は勢いで飲み干す。

「これ美味しい。なんていうの?」

「…レディーキラー」

「へ?」

「心配すんな。酔っ払って動けなくなったら、俺がお前を持ち帰ってやるから」

< 50 / 192 >

この作品をシェア

pagetop