ウソつきより愛をこめて

彼が関東地区から東北地区のマネージャーに変わったことを、先月の社報で知った。

こうやって会うのを先伸ばしにしても、いつか必ずここへ視察にやって来るだろう。



―――彼に溺れてしまったのは、私が二十歳の頃だった。

生まれて初めての彼氏。

キスしたのも身体を重ねたのも、何から何まで全部初めてだった。

でも会えばすぐ身体を求められて、寝ても覚めてもそういうのばっかりで段々うんざりしていった。

外でデートなんて数える程度しかしたことがない。

1年間付き合ってたけど、好きって言われた記憶ももちろんなくて。



…あの時受けた心の傷も、未だに塞がる気配がない。

近づいてくる男の人を見ると、そういう事が目的だと思って足が竦んでしまう。

お陰であれ以来、私は誰とも付き合うことはなかった。

恋なんてもう、一生できないと思う。

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