ウソつきより愛をこめて
数時間後、私はいつの間にか連れ込まれたシティホテルの一室で、彼に横抱きにされたままベッドに運ばれていた。
見事に深く酔ってしまった私は、とにかく気分がふわふわして、気持ちがよくて。
橘マネージャーがそっとふかふかのベッドに寝かせてくれた時、唇には柔らかくてひんやりとしたものが優しく触れていた。
「…んっ…」
水も飲めない程泥酔しきった私の喉に流れ込んでくる、ほどよい冷たさのミネラルウォーター。
それを何度も口移ししてくる橘マネージャーのシャツを、私はギュッと握りしめていた。
「…ん、んん~っ…」
「なんだ」
やっと離された唇から、私は酸素を求めて浅い呼吸を繰り返す。
「…あの…ファースト、キス…なんです…けど」
「へぇ、じゃあもう止めるか?」
意地悪な顔をされて、なんだかとてももどかしい気持ちになった。
なんで私、橘マネージャーとキスしても嫌じゃないんだろう。
なんでこんなに、心地よく感じるんだろう。
「…もっと飲む…」
酔ってるせいにして、私は浅ましく彼をねだる。
「責任とってやってもいいけど」
「…へ…?」
「…俺と付き合ってみるか?」
冷たくて気持ちのいい大きい掌が、私の額を撫で熱い頬を包み込んでいた。
すぐに小さく頷いたのは、もう心の大半を幼馴染みのお兄ちゃんではなく、目の前の人物が占めていたからで。
私の髪を優しく梳いたその表情を、今でも忘れることが出来ない。
彼の優しく笑った顔を初めて見た瞬間、見事に心臓が射抜かれて。
―――私は簡単に彼の手中に落ちていた。