ウソつきより愛をこめて

「お疲れー」

「お疲れ様でしたぁ」

十二月になってから、予算を落とした日がまだ一度もない。

私はすでに疲れてぐったりだけど、まだ十九歳のゆりちゃんは出勤時とさほど変わりないテンションだった。

「あの…橘マネージャー、この後なんですけど…」

攻める女ゆりちゃんが、ちょっと後ろから上目遣いで橘マネージャーのコートの裾を掴んでいる。

ここまで恋愛体質なのも、逆に羨ましい。

計算しつくされた男を誘惑する仕草を見て、年上の自分の方が妙に感心してしまった。

…男ってああやって騙されるんだ。

「なに?」

「あの…その…」

ゆりちゃんが口ごもりながら、チラチラと私の方に視線を送ってくる。

あーはいはい。二人きりになりたいから、邪魔者はさっさと消えろってことですよね。

「私急いでるので先に帰りますね。お疲れ様でした」

雪も溶けちゃったし、久しぶりに寧々と星を見ながら歩いて帰ろう。

そう思った私は、意気揚々とエレベーターに乗り込もうとしたのだけれど。

「…わっ…!」

後ろからコートの襟ぐりを引っ張られて、重心が傾く。

「結城明日早番だろ?事務所の鍵忘れてる」

無造作にポケットに突っ込まれた手から、チャリ、と鍵の擦れる音が鳴った。

っていうかあなたも早番ですよね?

…別に、私が持ってなくてもどうせ一緒に来るんだから、渡さなくていいんじゃ…。

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