ウソつきより愛をこめて
「なんだそれ。…たぬきか?」
「みんなが大好きな正義の味方のつもりですけど」
寧々と車の中の曇ったフロントガラスに指でお絵かきしていたら、運転席のドアが開いて橘マネージャーが乗り込んでくる。
「しょーちゃんっ!」
「ただいま寧々~っ。今日お迎え行けなくてゴメンな?」
「ううん」
橘マネージャーの顔を見た途端、寧々の機嫌はすこぶる良くなっていた。
「ゆ、結城」
「なに?」
悔しくて、必死で描いた寧々の好きなキャラクターを手で消していく。
後部座席にいろ私を、橘マネージャーはただじっと見据えていた。
「あの子、白鷺さんだっけ?ものすごくしつこかったけど、普段からああいう感じなのか」
「いや、あなたにだけでしょ。狙われてるの、わかってるよね?」
「……!」
私の言葉を聞いて、橘マネージャーは驚いたように目を丸くしていた。
「…なんで…」
「うちの従業員はみんな知ってると思うよ。あんなにあからさまな態度なんだから」
「…ああ、うん。でも飯に誘われても、俺はちゃんと断ったてきたし…」
まるで言い訳するようにそうぼやいた橘マネージャーは、少し焦ったように視線を泳がせている。
もしかして、私たちのせいで断ってきたのかな。
「別に、私たちのことは気にせず遊んできてもいいよ。好きでしょ?ああいう若くて可愛い子が」