ウソつきより愛をこめて

「なんだそれ。…たぬきか?」

「みんなが大好きな正義の味方のつもりですけど」

寧々と車の中の曇ったフロントガラスに指でお絵かきしていたら、運転席のドアが開いて橘マネージャーが乗り込んでくる。

「しょーちゃんっ!」

「ただいま寧々~っ。今日お迎え行けなくてゴメンな?」

「ううん」

橘マネージャーの顔を見た途端、寧々の機嫌はすこぶる良くなっていた。

「ゆ、結城」

「なに?」

悔しくて、必死で描いた寧々の好きなキャラクターを手で消していく。

後部座席にいろ私を、橘マネージャーはただじっと見据えていた。

「あの子、白鷺さんだっけ?ものすごくしつこかったけど、普段からああいう感じなのか」

「いや、あなたにだけでしょ。狙われてるの、わかってるよね?」

「……!」

私の言葉を聞いて、橘マネージャーは驚いたように目を丸くしていた。

「…なんで…」

「うちの従業員はみんな知ってると思うよ。あんなにあからさまな態度なんだから」

「…ああ、うん。でも飯に誘われても、俺はちゃんと断ったてきたし…」

まるで言い訳するようにそうぼやいた橘マネージャーは、少し焦ったように視線を泳がせている。

もしかして、私たちのせいで断ってきたのかな。

「別に、私たちのことは気にせず遊んできてもいいよ。好きでしょ?ああいう若くて可愛い子が」

< 76 / 192 >

この作品をシェア

pagetop