ウソつきより愛をこめて
「…どういう意味だ」
だって私も橘マネージャーに口説かれたのは二十歳の時だし。
単に年下が好きなのかなって…思っただけで。
ちょっと嫌味っぽい言い方になってしまったのが気に障ったのか、橘マネージャーの態度が一気に険悪になる。
「だから、私と寧々に構ってばかりいないで、もう少し周りに目を向けてみたらいいじゃん、ってこと。…あ、もしかして東京にも残してきた彼女とかいたりして?」
急に前を向いてしまった橘マネージャーが、今どんな顔をしてるかなんて想像もつかない。
「んなの、…いるわけないだろ」
ただその声はひどく苦しげで、なぜだか胸の辺りがぎゅうっと掴まれたように痛くなってしまった。
だって欲求不満なんでしょ?
だから、私に触ろうとするんでしょ?
そんなことを聞いたら、今度こそ本気で怒り出すかもしれない。
それくらい今の橘マネージャーが放つオーラは冷たくて、もうこれ以上刺激する勇気なんて私にはなかった。
「しょうちゃん?」
黙り込んだ橘マネージャーの顔を、寧々が助手席から身を乗り出して覗き込んでいる。
寧々の柔らかい髪の毛を、彼は大事なものを扱うように、優しく手ぐしで梳いていた。
「寧々、お星様見たいか?」
「うんっ。見るっ!」
「…今からちょっと、寄り道していくから」
そう言った橘マネージャーは、私の返事を聞くこともなくアクセルを踏み出していた。