クリスマスプレゼント
「あら!」


箱の中に指輪を見つけた陽子は、弾んだ声を上げた。しかしそれもつかの間、彼女の顔は急に暗くなった。指輪が気に入らなかったのだろうか。


「どうしたの、陽子」


「ごめんなさい……わたし、この指輪ははめられないわ」


僕は落ち込むというよりは、当然陽子は喜ぶだろうと思っていたのに、あてがはずれたこと、感謝の言葉も返って来なかったことに腹が立った。


そして僕は、無言でプレゼントを箱ごとつかむと、指輪もろともゴミ箱に投げ捨てようとした。

「待って!」


陽子は必死の形相で僕から指輪を取り返そうとした。


「あなたの気持ちはとってもありがたいのよ!わたし、とっても嬉しいのよ!でも……」


さすがに、妊婦相手に取っ組み合いのけんかをするわけにはいかない。僕は深呼吸をして苛立ちを抑えると、再び陽子の手に指輪を渡した。


「でも、なんだよ」


陽子はその問いには答えず、ちょっと指輪を眺めて、彫られた花に唇を当てると、そっと自分の指にはめた。


しかし、その指輪は、陽子の指のサイズに合っていたはずなのに、ぴったりではなく、はめた指の周りをくるくる回すことができるほどゆるいサイズだったのだ。


「ね?ぶかぶかなのよ」


「でも、結婚指輪の時は、このサイズじゃなかったのか」


「……あれから、だいぶ痩せちゃって。それに、つわりでごはんがなかなか入らないから、そのせいでも細くなったのよ」


そういえば、陽子はいつからか結婚指輪をしなくなっていた。

僕は、陽子の手をとった。毎日フルタイムのパートに出かけ、冷える台所で家事をする彼女の手は、いつの間にかふっくらした若さを失い、痩せ細ってがさがさと荒れていた。ところどころ皮膚が破れて血が出ている。眠る前にハンドクリームを塗って手袋をして寝ている彼女だが、それでも冷えや乾燥は、容赦なく彼女から張りのある若さを奪いつつあった。


陽子、いつもありがとう……。僕は陽子の手に自分のごつごつした手を重ねた。


「さあ、カレーはもうすぐできるわ」


指輪をきちんと箱に納めてから、カレー作りに戻った彼女の骨ばった背中を、僕はいとおしく見つめていた。


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