クリスマスプレゼント
「行ってくるよ」


翌朝、僕は、出勤準備でバタバタと忙しく歩き回っている陽子に声をかけた。いつも通り、玄関まで見送ってくれた陽子だが、今日は手に風呂敷包みを持っている。


「陽子、それは何?」


「これは、お弁当よ」


僕は驚いた。以前、僕がまだ働いていた頃にも、朝があまりに慌ただしいために、弁当はいらないと言ってきたし、それはハローワークに通う今もそうだったのだ。今日に限って弁当とはどういうことだろう。


「あんまり上手にできなかったけれど、おいしく召し上がれ」


陽子は微笑んで、はい、と風呂敷包みを僕に渡してくれた。その時、陽子の首もとに、今まで見たことがないペンダントを見つけた。


よく見ると、そのペンダントには、チェーンに二つの指輪が通されてペンダントトップとなっていた。


陽子は、僕の視線に気づくと、ちょっと照れたように笑った。


「結婚指輪と、昨日の指輪なの。こうしておけば、指にはめられなくても、いつも一緒だから」

「陽子……」


僕は、昨夜、自分勝手な怒りから指輪を捨てようとしたことを心から恥じた。それは、陽子の優しさまで放り投げる行為だったのだ。


「行ってらっしゃい」

「行ってきます」


僕たちの唇が触れ合った。やわらかく、ちょっとぽってりとした陽子の唇。一瞬のことだったが、幸福感は長く長く続いた。
< 6 / 7 >

この作品をシェア

pagetop