偽装結婚の行方
「真琴、声でかいって……」

「じゃあ引っ越しって、その女の所に?」

「ああ」

「結婚したって事?」

「そう。偽装だけどな」

「いつまで?」

「尚美が本当の恋人と結婚するまでさ」

「それはいつなの?」

「さあ……」

「さあって……呆れた。人がいいにも程があるわ」


と真琴がさもがっかりという感じで言ったところで、店員がコーヒーを持って来た。それに砂糖とミルクを入れ、かき混ぜながら、


「自分でもそう思うけどさ、尚美のすがるような目を見たら、協力しないわけには行かないなって……」


と言ったら、


「可愛いの?」


と真琴に言われ、思わず俺は顔を上げた。


「はあ?」

「その尚美って女、可愛いの?」

「それはまあ、どちらかと言うと……可愛いかな。可愛いって言えばさ、尚美の赤ん坊、希ちゃんっていうんだけど、目がクリッとしてすげえ可愛くてさ、しかも俺に懐いてくれて……」

「鼻の下伸ばしてんじゃないわよ!」

「うっ」

「その女が可愛いから引き受けたのね?」

「ち、違うよ」

「ブスでも引き受けた?」

「も、もちろん」

「どうだかね……」


実のところ、そういう事が多少は関係したかもしれない。いや、多少ではなかった、かも。

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