偽りの愛は深緑に染まる

 愛人。

 いやらしい響きだと思った。

 踏み切るにはかなりの勇気がいった。

 それは、去年の春のことだった。

 降りたことのない駅の近くのビルで飲み会をした。梨沙は酔わない質で、酒を飲んでも羽目を外そうとしたりはしない。べろんべろんになった会社の人たちと別れると、さっさと帰ろうとした。

 しかし、そこで道に迷った。見たことのない通りがずっと続いていて、進めば進むほど正しい道から外れていく気がして、途方にくれて立ち止まった。

 
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