偽りの愛は深緑に染まる
彼とは、そこで出会った。
上等なスーツに、高級そうな革靴を履いた三十代くらいの男性だった。あれは親切心だったのだろうか。それとも下心があったのだろうか。この間聞いてみたらはぐらかされた。
「道に迷ってるの?」
「あ、はい……駅がわからなくて」
少しびっくりした。思わずたじろいでしまいそうなオーラのある人が気安く声をかけてくれるから、どきまぎしていた。
「駅ならこの道をまっすぐ行けば着くよ」
「そうなんですか。ありがとうございます」
「君……ちょっと時間ある?」
「? 特に急いでもいませんけど……」
彼は、そうか、と言って少し考えると、梨沙を見下ろして言った。
「俺の、愛人になってくれない?」