偽りの愛は深緑に染まる
「りぃーさちゃん♪」

仕事を終え退社しようとしていた梨沙は、その声を聞いてうんざりした。
機嫌の悪い声で「何?」とだけ聞き返す。まともに相手するつもりは無かった。今はこいつに構ってられるほど心の余裕がない。それに、人が落ち込んでいるのを嗅ぎつけるのが死ぬほど上手そうだ。今日1日、佐渡山を見かけたら避けていたのに、最後でつかまってしまった。

「なんで怒ってるの?」

梨沙はため息をついた。

「……宝くじ外れたの」

佐渡山はゲラゲラ笑いだした。ウケを狙ったのかと思うほど見え見えの嘘が口から飛び出すくらい、梨沙の佐渡山の扱いは雑になっている。

「嘘じゃないから……ささやかな趣味というか生きがいなのよ……だからそっとしてちょうだ……」

そのとき、梨沙の言葉を遮るように佐渡山が爆弾のような一言を投げつけてきた。

「Liftの社長の愛人なら、ちまちま宝くじなんかやってんなよ」

梨沙は固まった。それが「当たり」と相手に答えているのと同じだと気付いたが、もう遅かった。
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