その結婚、取扱い注意!
紅緒さんの名前を出したら絶対に怒られる。

「な、なんでもない! おいしそう! 電車の中でお腹がなりそうだったの!」

大きく首を振り、顔の前で両手を合わせる。

「いただきます!」

フォークを持って、サラダに手をつける。

「あー! お前、これ見て笑ったんだろう!?」

湊は自分のエプロン姿を指さすと、すくっと立ち上がり外しはじめる。

「汚れると思って、すっかり忘れていたぜ……」

ブツブツ言いながらエプロンを外すと、隣のイスの背に無造作に掛ける。

「エプロンで笑ったんじゃないから」

そんな湊が可愛くて笑顔で否定してみる。

「嘘つけ。絶対にこれで笑ったんだろ」

私の否定を信じない湊は切れ長の目で睨むけれど、口元が笑っている。

「写メ撮っておけばよかったな。美里ママに見せたら絶対に喜んだのに」

こんな風に湊と会話をしていると、疲れなんてどこかへ行っちゃった気分になる。

「それだけは勘弁してくれ。美里に見せたら大騒ぎするに決まっている」

キャーキャー騒ぐ美里ママの姿が想像できる。


湊が作ってくれたカレーは美味しかった。

「さてと、先に風呂入ってこいよ」

食べ終わり、皿を運ぼうとすると、湊が私の手を止める。

「いいよ。湊が先に入って」
「あとは食洗機に入れるだけだから。もう眠いんだろ。風呂で寝ないようにしろよ」

私が持っていた皿を湊は取り上げてから、軽く背を押して風呂場へ向かわせようとする。

「湊、ありがとう」
「いつもミミがやってくれていることだろう? 礼なんていらないよ」

湊は照れ臭そうにテーブルに向きを変えた。
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