狂妄のアイリス

少女

 わからない。

 なんにも、わからないよ……!

 ビクリと体が震え、その振動で我に返った。


「おはよう、蛍」


 その声に顔を上げると、樹が椅子に腰掛けていた。

 お母さんの名前が書かれた病室で、私は一年前に殺されたはずのお母さんを見つけた。

 そこで私を朱音と呼ぶ日向さんに会って、日向さんの目がおじさんや樹の目ととてもよく似ていることに気がついた。

 そして、今。

 私は自分の部屋に戻ってきていた。

 まただ。

 また、私は自分がどうしてここにいるのか分からない。

 記憶にない。

 あの後、私は日向さんやお母さんとどうしたんだろう。

 おじさんと合流したんだろうか。

 私はいったいどうやって、病院から家まで帰ったんだろう。

 なにも分からない。

 なにも覚えていない。

 日向さんの目を見た後からここまでの記憶が、ない。
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