狂妄のアイリス
「わかった?」


 病室で最後に聞いた樹の声。

 同じ言葉を、樹は繰り返す。

 酷く頭が混乱している一方で、頭の一部は冴えわたっていた。

 わからない事だらけのなかで、わかったことが一つだけある。


「私は、朱音なんだね」


 それは、奇妙な感覚だった。

 私は今も昔も時鳥蛍で、それは揺るがない。

 でも、私は時鳥朱音でもある。


「そう。蛍は朱音だ。そして、僕――樹も朱音だ。唯も明羅も馨も、僕の知らないみんなも、もちろん朱音も。みんな、時鳥朱音だ」


 樹の言うことに嘘はないと、なぜか信じることが出来た。

 それだけの確信が、私のなかにはあった。


「嬉しいよ、蛍。今の主人格である君が、自らの状態に気付くことが出来たのは、僕にとって益だ。朱音の中は雑多で、もう少し整理しないと生き辛い」

「話して――」

「なにを?」

「全部」
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