狂妄のアイリス
 膝を抱える少女の手には水泡が浮かび、全体的に赤く腫れ上がっていた。

 自分でやったという言葉通り、爪には血と皮膚片が入り込み、腕に引っかき傷がある。


「おいで。手当てしてあげるから」


 青年にも、どれの傷を誰がつけたのか見分けはつかない。

 それでも、それだからこそ、青年は分け隔てなく手を当てる。

 安心させるよう笑みを浮かべ、それに嘘偽りはない。

 本当に、少女の姿を見ただけで笑みが零れる。

 そっと少女に手を差し伸べ、震える手が青年の手を握り返す。

 少女の手は冷え切っていた。

 それでも、血の通った温かい手だった。


「愛してるよ、朱音」


 青年の首に腕を回して、少女は抱きついてく。

 少女を抱き上げた青年は、満足気だ。


「みんな好きだよ」
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