狂妄のアイリス
 勉強机の椅子に腰掛けた樹。

 ベッドに腰掛ける私。

 別々に存在しているのに、私たち二人ともが朱音だった。

 樹は私が見ている幻覚じゃない。

 今見ている樹は幻覚でも、樹の存在自体は幻じゃない。

 私も樹も、同じ存在だった。


「解離性同一性障害――多重人格障害、と言った方が伝わりやすいかな?」


 多重人格。

 その言葉は、聞いたことがある。


「それが、私?」

「僕ら、だ」


 さっき樹が口にした、たくさんの知らない名前。

 それら全てが、私のなかに存在する人格なんだろうか。


「喪失した記憶が、解離した体験が、感情がそれぞれの独立した人格として存在している。誰が一番最初の人格で、誰が後に生まれた人格かなんてわからないし知っても無意味だ。僕らはみんなで、朱音なんだから」
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