狂妄のアイリス
「貴女がいなくなってからも、共有口座に生活費と慰謝料のつもりでお金を振り込み続けた。十二年間、ずっと」


 戸籍の上だけの婚姻関係。

 それをお互いに破棄することなくきた。

 女の姓は時鳥に変わり、生まれた子どもも時鳥の姓になる。

 小学校に入学する際に手続きをしようと話していたために、日向だけはそのまま西村を名乗っていた。


「引き出されるお金に生きていることを知り、戸籍を見て生まれた子の名前を知り、変更されない住民票に俺を恐れていると知った」


 積極的に女と子どもを探すこともなく、十二年を過ごす。


「日向を大切に育ててくれた貴女だ。朱音もちゃんと育ててくれていると信じてた」


 自分の口から出る言葉の数々が、独りよがりな妄執であること。

 そのことに、男は気づいているのだろうか。
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