狂妄のアイリス
 おじさん――ずっと、そう呼んできた。

 愛着があったし、愛情もあった。

 そんなおじさんが、そんな酷いことをする人だとは思いたくなかった。

 私だって、ずっとこの家で、一つ屋根の下で二人っきりで過ごしてきたんだから。

 私が今まで見てきたおじさんの優しい姿は、全部嘘だったの?


「……ここ。ここの引き出しを開けてごらん」


 私の問いかけとは無関係に、樹の声が響く。

 泣きそうになるのを堪えながら顔を上げると、樹が椅子の上から机を小突いていた。

 幻覚の手は机には触れられず、それでも一番上の引き出しを叩いているように見えた。


「なに……?」


 私の、時鳥蛍の記憶にはない。

 樹が示すその引き出しには、なにがあるんだろう。


「開けてみたらわかるよ」
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