狂妄のアイリス
 女の手が緩んだ一瞬の隙に、少女は女の手を引き離すことに成功する。

 久方ぶりの酸素を肺いっぱいに吸い込み、むせながらも玄関に向かう。

 よろめき、テーブルに手をつく。

 焼きそばの入ったお皿に手がふれて、落ちる。

 床の上で皿が割れるよりも先に少女はテーブルを離れて、壁に手をつきながら必死で逃げた。

 女は少女を追うこともなく、首をしめた格好のまま茫然としている。


「朱音!」


 少女は青年に見向きもしないで、玄関を飛び出して行った。

 少女がわきを抜けた時、青年の蒼いグラデーションの瞳は少女の横顔を映していた。

 少女の首についた、手形をはっきりと映す。

 それに動揺して、青年は少女を引き止めることが出来なかった。

 我に返り、慌てて少女の後を追った時にはもう遅い。

 少女の姿はどこにもなかった。
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