狂妄のアイリス
 どこへ行ってしまったのかと一瞬焦るが、少女の行先はいつも決まっている。

 家からほど近い場所にある児童公園。

 そこのベンチで、少女はよくたそがれていた。

 どこへ行っても、最終的にはそこにたどり着くだろう。

 さ迷った末に、真っ直ぐ家に戻ってくるとも思えなかった。

 帰る場所が、ここしかないとしても。

 青年は公園に走り、少女の姿を探す。

 回り道をしていているのか、少女の姿はまだなかった。

 けれど、青年に遅れること数分。

 少女は児童公園に姿を現す。

 上着も羽織らず、寒々しい姿。長い髪で隠れてはいるが、首にはまだくっきりと手形が残っている。

 走り回っていたのか、息が上がっているのがありありとわかる。


「こんにちは、蛍ちゃん」


 ベンチで少女を待ち構えていた青年は、その立ち姿の雰囲気から今の人格が誰であるのかを察する。


「日向さん……こんにちは」


 真っ白い息を吐きながら、少女は微笑む。
< 160 / 187 >

この作品をシェア

pagetop