狂妄のアイリス
第九章「おわりかた」

狂妄

「じゃあね」


 温かい飲み物と自分のマフラーと、気休めのバンソウコウ。

 青年はそれらを少女に渡して少し話をしてから、先に公園を後にした。


「…………」


 公園を後にした青年の目は険しい。

 真っ直ぐに走って帰った家の玄関は、青年が出て行ったままの状態で鍵が開いていた。

 無言でその扉をくぐる。

 靴を履いたまま、家に上がり込む。

 少女の首を絞めた女は、リビングにいた。

 お茶のカップも焼きそばのお皿も、倒れた椅子もそのままになっている。

 青年に背を向けて立っている女から、鼻歌が聞こえた。

 女の背中越しに、卓上サイズの小さなクリスマスツリーが見える。

 女はそれを眺めながら、クリスマスソングを歌っていた。

 青年は女から目を離さない。

 倒れていた椅子を起すと、それをしっかり握りしめた。
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