狂妄のアイリス
 椅子を振り上げ、女の頭に振り下ろす。

 その動きに、ためらいはない。

 鈍い音がして、女が倒れる。

 机に突っ伏し、クリスマスツリーが飛び上がった。

 女の体はそのままテーブルからずり落ちて、壊れたマネキンのように落ちる。

 女は動かなかった。

 倒れた女の頭部から赤い色が広がっていくのを、青年はじっと見下ろしている。

 青年の息は荒く、青い目は充血していた。

 再び椅子を振り上げようとするが、手が震えて持っていられなくなった。

 動かなくなった女の傍らに椅子が床に下ろされ、そこに青年は腰掛ける。

 頭を抱えて、じっと動かなくなった。


「朱音……」


 青年のそのつぶやきに応えるように、小さな気配が部屋に入ってくる。

 青年は顔も上げずに、そのまま俯いていた。
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