少女狂妄
「ただいま」


 その声は、先ほど公園で別れたばかりの少女の物であった。

 けれどその声を聞かずとも、青年は足音だけで少女が帰って来たのだと分かっていた。


「お母さん……? お兄ちゃん……?」


 心細げな声が、青年の耳に届く。

 光景を見た少女がどんな表情をして、どんな目で青年を見るのか。

 それは、誰にもわからない。

 リビングに入って来た少女は終始無言で、青年も何も言わず、女も微動だにしない。

 まるで無人だった。

 ふわりと、俯いた青年になにかが掛けられる。

 頭部を覆うその布が、先ほど少女に渡したマフラーだと察する。

 青年の顔を隠すように掛けられた布の上から、少女は青年を抱きしめた。

 布に覆われた暗闇の中で、青年は少女がすすり泣く声を聞く。


「朱音……俺が守るから。絶対に、守るから」


 悲痛なその声も、泣いていた。


 なのに、それなのに――
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