狂妄のアイリス

少女

 そっと音がしないように自分の部屋を出る。

 樹の話だと、一階にはおじさんと日向さんがいるらしい。

 きっと、これからの話をしているんだと思う。

 私がいろいろ気づいてしまったから。

 私の部屋と対角にあるおじさんの部屋に向かう。

 足音を殺して、ほんの数メートルの距離をドキドキしながら移動する。

 おじさんの部屋の扉も、私の部屋の扉も、まったく同じ形をしている。

 でも、私はこの部屋の扉を開けたことがなかった。

 緊張しすぎて、心臓が口から飛び出しそう。

 おじさんの部屋のドアノブを握る手が震える。

 決して入らないとおじさんと約束した。

 その約束を、私は破ろうとしている。

 日向さんがあの女の子を殺した。

 その証拠がこの部屋にあるという樹の言葉を信じて……
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