狂妄のアイリス
 他の調度も、ここが日向さんの部屋であることを示す物ばかりだった。

 壁には見覚えのある日向さんのコートが掛けられているし、小物もおじさんの趣味にしては若々しい。

 記憶の隅をつつくと、さっき通った廊下にもう一つ扉があったことを思い出す。

 私の部屋とこの部屋の間にあるもう一つの部屋。

 どうして今まで気にならなかったんだろう。

 あっちが、おじさんの部屋だったんだ。

 私の妄想を守るための、約束。

 自分の馬鹿さ加減にため息が出る。

 日向さんの教科書を机に置いて、壁に掛けられた日向さんのコートに近づく。

 袖を手に取り顔を埋めると、日向さんの匂いがした。

 懐かしい香り。

 生まれたときからずっと、私の傍にいてくれたお兄ちゃん。

 体の奥がうずくようなその香りに、鉄の臭いが混ざっている。

 何度も自分を傷つけてきたからこそ、よく知っている血の臭い。

 あの女の子の血の臭い?
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