狂妄のアイリス
第六章「ひとみのいろ」

狂妄

 さっきまで鳴いていたのが、今は静かなものだった。

 黒装束が屈み込む前には、無残な姿になった三毛猫が横たわっている。

 上を向いている左の眼窩は空洞になり、池のように血が溜まっている。

 愛らしいはずの三角の耳はおぞましく床に並べられ、耳を亡くした丸い頭は違う生き物のようだった。

 四肢は奇妙な方向にねじ曲がり、関節から骨が飛び出す。

 白と黒と茶色の三色の毛皮は一部が焼け焦げ、一部が赤く染まっている。

 特に腹部は真っ赤だった。

 この小さな体のどこに、これだけの物が納まっていたのだろう。

 大量の血と臓物が広がっていた。

 むせ返るほどの濃い臭気。

 そこで黒装束は呼吸をする。

 肺を守るのは、口元と頭を覆う黒い布のみ。

 その布の隙間から見える瞳。

 光の加減で、ブルーにもグリーンにも見える虹彩。

 琥珀の混ざった、猫のような目だった。
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