3つのR


 といっても料理が運ばれてくるのではなく、小洒落たバイキングだ。皆それぞれの友達と話しながら会場の両端に並ぶビュッフェテーブルへと向かう。ずら~っとプレートを持って並ぶ人波にうまく入れこめず、私は列がすくまでとテーブルに座ったままだった。

 自分の席についたままで、周囲を見回す。

 整えられた室内に、新婦の千草の好きな花の香りと木霊する笑い声。皆がそれぞれ笑顔でいて、素敵な空間だと思った。

 ・・・だけど、ちょっと、疲れちゃった・・・。履き慣れないフォーマルなパンプスに足の爪先が痛かった。私はテーブルの下でこっそり脱いで、足をぶらぶらさせて痛みから逃げる。

 ざわめくレストランの中で、その時、私の背後から懐かしい静かな声が聞こえた。

「潤さん」


 ――――――――――あ。



 私は思わず目を見開いて、そのまま動けずに体を固めてしまう。

 ・・・・この、静かな声は―――――――――――

 目の前を数人の友達がお皿を手に通り過ぎる。その笑い声に勇気を貰って、私はゆっくりと振り返った。

 私の席の後ろには、絶世の美男子がいるはずだ。そう予想して。

「・・・高田、君」

 艶やかな黒髪を後で整えた美男子は、私の予想通りに静かな微笑を浮かべていた。記憶の通りの佇まいで、だけれども記憶の中よりは遥かに色気も雰囲気も増量したいい男になって、そこに立っていた。

 ちょっと体つきがガッシリとして髪が長くなっている。私はまずそれに驚いて、彼の背中で束ねられているらしい黒髪をじっと見た。私が知っていた頃の彼は、黒髪の短髪だったのだ。


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