ラベンダーと星空の約束
「んーとね…
流星、また本読んでたの?何て言う本?」
「ドストエフスキーの“罪と罰”だよ」
「どすと…何?」
「ハハッ ロシア文学だよ。
紫にはまだ難しいから…」
「そんな事ないよ!見せて!」
5年前の夏、
ラベンダー畑の前の、白樺の幹に背をもたれ、流星はこの本を読んでいた。
その日は朝から暑くて、
体調に気をつけなければならない彼は、
本当はクーラーの利いた室内で、大人しくしていた方が良かったのかも知れない。
それでも彼は雨が降らない限り、いつもこの白樺の木陰で、私が来るのを待っていた。
遠くの山の方には入道雲のもっさりとした塊が。
私達の真上は雲一つない青い空が広がっていた。
蝉の声と鳥の声と、
早い時間からラベンダーを見に来てくれた、観光客の楽しげな声。
風景画の様な景色の中で、流星の隣に座り、手の中の文庫本を取り上げた。
パラパラとページをめくり適当な文章を読もうとしたが…
振り仮名が振ってない…習っていない漢字が多い…
漢字を抜かしても、
日本語なのに書かれている意味が分からない…
結局読めないまま、流星の手の中にそっと返した。
「ほら、紫には難しいって言っただろ?」
「うっ…
流星は分かるの?」
「多分ね。
著者が言いたかった事をその通りに解釈しているかは分からないけど、ストーリーは理解出来るよ」