ビターオレンジ。
「…ん」
目を覚ますと、白い天上が見えた。
痛む全身と薬の匂いでここがどこだか、嫌というほどわかった。
具合いの悪さは良くなっていて、少し頭が痛いくらい。
ゆっくりと起き上がり手に巻かれた包帯と足首や膝に貼られたガーゼなど痛々しい傷を見てみる。
あぁ、生きてるんだって実感した。
酸素マスクを外し…点滴を抜いて横にあった松葉杖をついて個室を出る。
咲さんはどこ?
私の中でその質問だけが頭をいっぱいにしていて、痛みは自然と忘れていた。
慣れない松葉杖のせいかフラフラとした足取りになってしまう。
「多野さんっ!?駄目ですよ!まだ安静にしていなきゃ傷口が開いてしまいます!」
そんな声が聞こえたけどどうでもいい。
「咲さんはどこ…咲さんは!!」
取り押さえられてもそう叫んでいた。
「咲さんに会わせて…っ!」
ただ、貴方の無事がわかれば良かっただけだったの。
だから、
「残念ながら、病院に運ばれた時にはもう…息をひきとっていました。」
そんな答えが聞きたい訳じゃない。
そんな返事を求めた訳じゃない。
「…嘘だよ。ねぇ、どこにいるの?咲さん…」
私の傍からいなくならないで。
ずっと笑っててよ。
「…咲さんっ…咲さんっ!!」
一人にしないで…。
「…っう…」
また抱きしめてよ。
また写真撮ろうよ。
また一緒に買い物行こうよ。
好きな人の話もしよう。
咲さんの作ったあのケーキ食べたいよ。
ねぇ、だから…お願い。
生きててよ。
「…お…母さん…」