ビターオレンジ。





「何泣いてんだよ。」



ふと聞こえてきた良く知る人の声。


「本宮君…」


その人の声を聞くといつも安心する。



「ていうか泣いてない…っ」

「泣いてんじゃん。」





意地を張ったって直ぐに否定されて…もう少し気遣ってくれたりはしないのだろうか。




好きな子に嫌われるぞ。



という冗談は置いておいて…。






本当は凄く優しい。

優し過ぎて困るくらいだ。





「…なんでいるの?」

「別に、落し物しただけ。」




わかりやすい嘘。

本当は今日も私を迎に来てくれたんだと思う。


だっていつもそうだから。






「いつまでも泣いてたらブスになるよ。」



思わず俯いていた顔をバッとあげた。

前言撤回。



全然優しくなんてない。




そう…思ってた。




わざとムッとすると、

あたしの近くに来て本宮君はとても柔らかく微笑んだんだ。

怖いくらいに…。


私の頬に残った涙をそっと拭ってポンポンと翔ちゃんのように頭を撫でてくれた…。




「本宮君ってさ「彼方(かなた)。」…え?」


「俺、彼方って名前なんだけど。」


「うん?」




あまり意味がわからず聞き返すと呆れた顔をされた。


大きなため息までつかれ、




なにかしてしまったのだろうかと焦る自分がちょっとだけ可笑しかった。





頭を撫でていた手が止まり、



「やっぱお前って馬鹿だな」




口元を隠しながら、ふふって笑われた。





少しだけそんな姿に見入ってしまったのは私だけの秘密。



いつの間にか流れていた涙もすっかり止まってたんだ。


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