落雁
「え、雪姉もぉ?」
「あら…何かあった?」
「甚三も出てるんだよね、外に」
母は一瞬考えたような素振りをしたけど、すぐにテレビに視線を戻した。
これは考えたようなふりをしただけだ。母の十八番。
「辰巳は部屋に籠りっきりよ、聞くに聞けないわ~。きっと雑魚でしょ~」
テレビを見ながらくすくす笑う母。
あたしもテレビを見てみる。
ゆるくないゆるキャラの総選挙中のようだ。
母の笑いのつぼは、16年共にしていても理解できないままだ。
まぁいいか。これまでに全員が総出で出ていった事なんて何回もある。
あたしは部屋に戻って、ジャージに着替えた。
押し入れから隠している筋トレグッズを取り出した。
案外高額なそれを購入したことは中学生の時から内緒にしている。
唯一、甚三だけは知っているが。
ランニングマシンが喉から手が出る程欲しいのだが、音が大きいと言う考えで諦めた。
手始めにダンベルを持ち上げる。
みしっと筋肉がフル活動してるのを実感して、心地好くなった。
我ながら呆れる位の運動バカだと思う。
暇さえあれば、素振りだのランニングだの腹筋だのダンベルだのをしている。
そうしている時が1番至福の時だ。
幸いな事に、筋トレをしても筋骨隆々にならない体質な事には安心している。
腐っても女だ。
少しずつ増えてく体重と、減っていく体脂肪が何とも言えない幸福感を持つ女子高生はあたしの他に居るのだろうか分からないが。
あたしはダンベルの重さを20キロに増やした。