落雁



□ □ □



今日は清々しい日曜日。


今朝は素振りから始まった。


部室から盗んできた男子用竹刀は女子用よりも長く、重い。
素振りが二の腕に効く感覚がたまらない。


程良く体が温まってきた所で、竹刀を片付け朝の闘いへと向かう。
今日は平日より遅いし、父もしゃきっとしているだろう。


「12代」

部屋に入ると、父は誰かと電話していた。
珍しい、電話嫌いの父が。

その電話は長く無かったようで、間もなく父は電話を切った。

「弥刀が俺を当主と扱う時はただひとーつ!!!」

携帯を机に置き、父は乗りに乗っていた。
このままのノリでいけるかもしれない。

「次期当主はあたしに!!」
「無理!!!」
「なんで!今のノリはいける雰囲気だった!!」
「ノリはノリでしか無いんだよー」

おちゃらけ半分で父は舌を出した。

「良い加減あたしに譲ったらどうなの。もう引退でしょ」
「あと30年はいけるわ!!先代越えるわ!!!」

相変わらず頑固だ。

「大体、あたしの他に京極の血引いた父さんよりも若い男なんて居ないでしょう。次期当主のあてなんかないじゃん」

事実は事実だ。
さぁ、男並みにタフなあたしを次期当主に選べ!!

「はいはいはい。さっさと宿題しなんし!!」
「なんで花魁?!」

父の部屋から追い出されて、あたしはやけくそで20キロダンベルを持ち上げた。


そして、その時あたしは気付いていなかった。
父がぼそりと呟いていた事に。


「いやー、次期当主が居ないこたぁ、ないんだよなぁー…」


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