落雁
「だって弥刀ぉ、お前まだ怪我してんだろ?」
「あ、そうか」
司も今更気付いたような声を出した。
そして自分も自分が怪我をしていることに気付く。
「ほんとだ…」
「自分で忘れるなって」
ごっつは、あたしが怪我をしている事でスパーリングを諦めたと思ったらしく、明るくなった。
「いや、スパーリングはやるけど」
「さっすが弥刀ちゃん。根性あるよね」
「おい、やめとけって。俺は許可しない」
たかだか目の上のかすり傷、肩の痛みくらいだ。
そんなに支障が出るとは限らない。
「第一、お前は女なんだから、こいつに勝てるわけないだろ?てかそもそも、スパーリングってそう言う勝負つけるやつじゃないんだからもー。ただの練習だぞ」
「ごっつ、お願い」
これは譲れない。
司が京極家に相応しいのか、どうか。それを確認する時は今しかないんだ。
きちんとした形で、司を試せるチャンス。
「そもそも、お前はこの部活にいることが奇跡であって、練習内容は筋トレだけなの!それ以外は許可しない!」
ごっつの意思も固そうだった。
ううむ、決意したごっつは揺らす事ができない。
「じゃあ、こういうのはどう?僕は弥刀ちゃんに何もしないから、弥刀ちゃんが僕を倒せるかってやつ」
「え?」
「つまり僕は、やられっぱなしってこと」
ちょっと待った。それじゃああたしは納得いかない。
反論しようと思ったけど、司が遮った。
「まぁ、それならいいけど…。ほんとにお前、何もするなよ」
死人なんて出たら、この部活は終わりだとごっつは苦笑しながら言った。
「しないしない。弥刀ちゃんは女の子だからね」
司はにこやかにそう言った。
こいつ、本当にそんなこと思っているのだろうか。