落雁



□ □ □



月曜日。


今朝もいつもの様に家族を起こして、父と喧嘩をして家を出た。


いつもと違ったことは、甚三が頬に傷を作っていた事だ。
やっぱり昨日は出ていたみたいだけど、甚三が怪我をするなんて珍しい。

本人は気にしていないようだけど、一体何があったのだろう。


「甚三、昨日の獲物はでかかったの?」
「お嬢、獲物だなんて野蛮な」
「やくざが言うなやくざが」
「…まぁ、でかかったですね」

運転している甚三の後ろ姿は何処か嬉しそうだった。
何か腑に落ちないなぁ。


いつも降ろしてもらう場所に着いて、学校に向かって歩く。


教材やらが入って、なかなかの重さの鞄をダンベル代わりに上げ下げしていると、冬の寒さも忘れる。
やっぱり体が鈍るのは良くない。

今日は肉体的にきつくなる柔道部に顔を出そうか。


そう考えている時だった。


「お嬢、風で捲れそうですよ」

下の方から柔らかい男の声がした。

「は?」

意味が分からなかった。
もしかしたら不審者かもしれない。どうせいい歳のおっさんだろう。


あたしは振り向いた。

するとそこには、あたしの予想と違った人物がしゃがみこんでいた。


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