落雁


同じ学校の男子生徒だ。
見慣れた黒の学ランに指定鞄を持っている。

「お嬢、おはよう」
「…は?」


全く知らない、美形な男子。

男で顔がきれいなやつには知り合いが居ない。
人違いだろう。
それにしても、かなりの変質者だ。

まだ高校生だと言うのに、人生を血迷ったか。
このまま社会に出て不審者扱いされて一生余分なリスクを背負っていくんだ、可哀想に。

「いや、人違いでしょ」
「薄ピンクの可愛い系…」


3秒かかった。
あたしの拳が飛び出す時間に3秒も掛かってしまった。

あたしの渾身のパンチをそいつはひらりとかわす。

何だこいつ、まぐれか。


「意外だった。ほんと意外だった」
「しね!!」

あたしは反射でそいつの胸ぐらを掴み、立ち上がらせる。


甘い匂いが鼻を掠める。


あたしの小さい脳味噌の中で、何かと何かが繋がった。

お菓子みたいな匂い。何かを思い出せる、この匂い。


あたしはそいつを凝視して、細いけど意外にも身長があることに気付く。

少し立ち止まって考えたけど、それはすぐに思い出せた。


「お前!!」
「え?」


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