落雁


「あたしを知ってるの?」
「うーん、まぁ、知ってるかな」

何なんだ、その曖昧な答えは。


「どう言う事?」
「まぁ、その内分かるよ。そんなに怒らないで」

そいつは自然な流れであたしの掴んだままの拳に口付けた。

「ひっ!!何すんだ!!」

全身に鳥肌が立って、急いで手を引いた。
が、ぴくりとも動かない。

「あ、ごめん」

そう言ってぱっと手を離す。


「僕の紹介、まだだったね。僕は神谷司。お嬢と同い年だよ」
「かみやつかさ?」

記憶を張り巡らしても、神谷司と言う名前はあたしの脳味噌に引っ掛からなかった。


「…だれ」
「それは、まぁまた今度ゆっくり。遅刻するよ」

神谷司は柔らかな笑顔であたしの頭に手を置いた。

「触んな!」
「噛み付くねー、えっと、弥刀ちゃん??」

あたしは神谷司を置いて、早足で学校を目指した。

大体、こんな男はうちの学校に居ただろうか。
記憶にない。
こんな容姿なら、もっと騒がれている筈だ。


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