落雁
何にせよ、あたしの正体を知っていて平常で居る時点でおかしい。
普通何か聞いてくる筈だ。
とにかく、こいつの正体がはっきりと分かるまで関わらないでおく事が最善だ。
あたしは全速力で走って学校に向かった。
スパンと教室の扉を開ける。
よし、奴は居ない。
まぁそもそも同じクラスな訳がないのだから、警戒する必要はないのだけれど。
「弥刀ちゃん」
ぽんと肩を叩かれる。
この声は。
ぞぞぞと鳥肌が立つ。
あたしは振り向かずに走って席についた。
そしてやっとそこで、扉の前に立っている長身の男に目をやった。
甘い笑顔で突っ立っている。
クラスメイトが神谷司に大注目している中、チャイムは鳴った。
沈黙に包まれたまま、担任教師は教室に入ってくる。
「おー、なんか今日は静かだな…って、神谷ぁ!校長室来いって言っただろう」
「そうだっけ?」
飄々と、だけど柔らかに神谷司はそう言った。
担任は神谷司を手招きして、黒板の前に誘導する。
そんな馬鹿な事があってもいいのだろうか。
まさか。